ジレンマ(矛盾)

早速ですが、

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皆さんはこの構造式をご存じでしょうか?
私が薬学部の学生であったときには、この構造式が分からなければ単位を与えないとまで言われたものです。

このお薬は代表的な解熱鎮痛剤の一つです。歴史も長く1899年にドイツで初めて市販され現在に至っています。
もともとは解熱鎮痛、炎症止めとして使われていたお薬ですが、途中で少量使用することにより血栓を作らせない作用があることが判明しました!
現在では専ら抗血小板薬として使用される割合が多いお薬です。

学生時代に私が抱いた疑問は、
「なぜ風邪薬として使う場合は血液がサラサラになることがないのか?」ということです。

もちろん血栓を作らせないということは、出血のリスクが高くなります。例えば歯茎の出血、青あざ、傷からの出血、等々・・・
風邪薬として飲んでいてこのようなことが起きては大変です!

そこで当時調べてみました。
このお薬にはトロンボキサンA₂(TXA₂)、プロスタグランジンI₂(PGI₂)という2種類の物質の合成を阻害する作用があります。
それぞれの作用は以下の通りです。

txa2-pgi2

調べてみるとさらに混乱・・・
血小板の凝集の促進、抑制が同時に起きている・・・( ゚Д゚)

そこで当時、読みなれない英語の論文を読んでみると(何日もかかった・・・)
ジレンマというワードが出てきました。
まさに言葉の通りのジレンマ(矛盾)です。

ここでキーワードとなるのが低用量ということです。

実は血栓予防で使われる場合は、この成分が低用量しか含まれていません。

なんと、低用量だとTXA₂のみの合成を阻害するのです。

つまり、血小板凝集促進のみを阻害!PGI₂は普段通り働いているので血小板凝集抑制のみが作用するのです。

だから風邪薬で使う用量では、促進抑制が同時に起こり凝固系には影響しないのか!

スッキリ!( ;∀;)ということでした。

ということで、答えはアセチルサリチル酸(商標名:アスピリン)です。

 

ちなみに、胃に負担がかかるというのもPGI₂による胃粘液分泌促進が抑えられるからなのですね。

これらはアスピリンに限らず、NSAIDsといわれる分類の解熱鎮痛薬には当てはまることです。
(ただ、アスピリン以外は血液サラサラ目的に使えない理由があります。が、話すと長くなるので気になる方は用賀店塚本まで!)

世の中にはたくさんの薬がありますが、まだまだ未知の部分があるかもしれないですね。

 

最後に余談ですが、

最近、「低用量のアスピリン療法」が糖尿病患者の心筋梗塞や脳卒中を予防するために(一度も発症をしていない人)効果的といわれていましたが、医大などの研究により消化管の出血リスクが増してしまうので有効ではない、などの研究結果がでていました。

あくまでも一度も発症していない人に対しての治療の話なので、一度発症してしまった人に対しての予防効果は認められています。

 

それでは、この辺で!